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【連載】米国の病院経営を覗き見る:危機から見える機会

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目次

本編は米国医療グループを経営したリーダーたちにより立ち上げられた病院経営アドバイザリー「Relia Healthcare Advisors」がヘルスケア組織を取り巻くあらゆる問題に対して考察した 記事をお届けします*。

*今回は、Relia Healthcare Advisors “The Opportunity of Crisis”からの和訳

 1.混乱からの教訓

「混乱があるところには機会があります。崩壊があるところには、進化を遂げる機会があります。」-モーリーン・メトカルフ、フォーブス評議会メンバー

 新型コロナ感染症拡大により不安定化した経済、浮上した社会の不公正、世界を二分するような数々の問題は、組織のリーダーが計画や戦略を立てることを難しくしています。新型コロナは、ヘルスケア分野においては更に破壊的な影響を及ぼしていますが、リーダーに多くの機会も提供しています。緊急性と必要にかられたリーダーは、前例のない方法で、戦略や組織変更を優先し、実装することができるのです。

 不確実な時代の中でリーダーシップを発揮することは、多くのリーダーが経験しておらず、また多くがその重要性を十分に認知していません。そうした中、私たちが今直面している状況は、リーダーに対して、よりインパクトのある方法でリーダーシップを発揮する機会を提供しています。新型コロナウイルスは、全産業に影響を及ぼしていますが、特にヘルスケアへの影響は大きいものです。ロックダウンや社会的距離を保つことは、通常の患者ケアの流れにも負担をかけています。病院職員は、誰も答えられないような質問への解をリーダーに求め、その回答が不明瞭な場合、「軽視されている」「過小評価されている」と感じてしまいます。職員のエンゲージメント(組織に対してのロイヤリティや愛着を持っている状態)は先の見えない不確実性の中で停滞してしまっているのです。

 2020年後半に就業していた一般労働者へのサンプル調査によると、40%が新型コロナウイルスに対する自身の貢献が十分に評価されていないと感じ、エンゲージメントの低下がみられました。十分に評価されていないという感情は、医療関係者においてはより顕著です。Monster.comによると、現在雇用されている個人の85%が積極的な転職活動をしています。看護師や医師の間でも、職場への疑問が見られるのです。

 また医療機関と、現場にいる医療関係者の間にある「社会的取決め」の有効性も疑問視されています。「ZEROHARM」(回避可能な事故を未然に防ぐ)に対する、組織のコミットメントが疑問視される度に、医師のエンゲージメントも脅かされます。患者や職員に対する医療の質と安全の約束が果たされているか、医療機関の経営層に疑いの目が向けられています。一方で多くのリーダーは、新型コロナウイルス対応のプレッシャーの下、約束された価値を提供し続けることが困難になっている、もしくはその対応に関し適切なコミュニケーションができていない状態にいます。実際、多くのリーダーは新型コロナウイルス対応において、患者及び職員の安全を最大限考えているということをうまく伝えきれていないことが多々あります。リーダーは信頼を醸成・維持する為の、透明性の担保、1対1の対話、タイムリーな決断をすること、に課題を抱えているのです。

2.新しいスキルに対する認知

新型コロナウイルス感染拡大は、従来ヘルスケアリーダーが必要としたリーダーシップスキルと、危機からの回復を牽引するために必要なスキルとの間に、大きなギャップがあることを浮き彫りにしています。職員のエンゲージメントの低下、社会不安の中でリーダーは組織決定を行わなければなりません。医療関係者は不安を感じています。ヘルスケアリーダーは共感し、不安の原因を認知し、必要あれば自身の失敗を認め、可能な限り不確実性をなくし、信頼を醸成する行動をとることで、この不安に対応する必要があるのです。

 現場にいる医療関係者とリーダーは、相互信頼と透明性担保により、危機的状況の中でも効果的なコミュニケーションを取り、戦略を立案し実行する事ができます。経営層は、自らの失敗を認める準備がなければなりません。失敗を認めることで、新型コロナウイルスに係る失敗に対する職員感情をリセットし、信頼を回復することができます。PPE(個人用防護具)の供給やワクチンの提供に関連する、初期の多くの失敗の記憶は、簡単に消えることはありません。職員は、リーダーを信頼しないあらゆる理由に固執します。信頼を再構築するために、リーダーは、職員の意見を尊重し、共に組織の回復に向かう熱意を共有できる、オープンで正直な環境を作り上げる必要があるのです。

 3.不確実性とコミュニケーション

「危機的状況」というものの性質上、リーダーには常にすべてを把握できているわけではありませんが、従業員からの信頼とサポートを引き出すべく、リーダーは行動し、コミュニケーションを取ることはできます。こうした環境は、すべてのステークホルダーに対し対話を希望することを効果的に伝えることにより構築されます。特に危機的状況下においては、明確さが鍵となります。組織による決定、変更、及び目標の理由を示す簡潔で明確なメッセージは、医療関係者への情報伝達、そしてエンゲージメント向上に役立ちます。明確なコミュニケーションをする為には、伝達された情報に組織の価値観がどのように関連しているかを伝えることが重要です。職員の不安の原因は、多くの場合、不確実性です。経営層からの情報共有がない場合、現場にいる医療関係者は、人員配置、物品の供給不足、職場の長期的な雇用の見通し等の課題に関し自己の見解を述べ始めます。こうした見解は、しばしば状況を現状以上に悪いものとして表現されるのです。

 4.分散されたチームの統一

新型コロナウイルスの感染拡大は、医療の雇用と提供の形を変えました。今は有形資産が集中している医療現場ですが、将来的には多様な職場環境への適用が必要になります。家庭環境、オフィス環境、オンラインの仮想環境等、新しいケアの環境が今後続々と出現します。職員は対面及びリモートの双方の対応を求められます。ケアチームは多様な文化性を持つようになり、また地理的にも分散したものになるでしょう。

 医療における雇用の、新しい分散型の構成では、リーダーは前例のない方法で関係者と連携し、チームをまとめる必要があります。新しい環境が及ぼす影響を軽視すれば、職員の意欲が失われ、組織のパフォーマンスも悪化するでしょう。今後、組織に適用する能力が高く、分散型雇用への適性がある職員を雇用することが重要になります。リーダーは、医療における戦略、文化、および変動的な成功指標における重大な変化を効果的に管理するためにも、職場環境へこうした変化を迅速に組み込む必要があります。適応性と柔軟性を持つことが、ポストコロナのヘルスケアリーダーにとって重要なスキルになるのです。

 5.透明性ある関係構築

チームメンバーと、透明性が高く、正直な関係を築くことで、リーダーは共感力があり魅力的なものとなります。オープンなコミュニケーションは、危機的状況の際に安心感をもたらし、周囲のエンゲージメントの向上にもつながります。謙虚さと率直さは、一部のヘルスケアリーダーにとって自然と発揮できるものではないかもしれませんが、これらのスキルを育成する必要があります。

 また、「アクティブリスニング」は、チームメンバーとの安定した関係を構築し、組織内部の声に対する本質的な洞察をリーダーに提供します。リーダーは耳を傾けることで、関係者に共感する姿勢と真摯な態度を表明することができます。「アクティブリスニング」は、入院・外来・在宅等あらゆるケア環境におけるリモート且つハイブリッドなチームを管理するのに重要なスキルなのです。

 更に、リーダーはすべての意思決定を意図的に行い、その決定が必要である理由を明確にする必要があります。組織で新たな舵を切る際には、ステークホルダーが新たな戦略・ミッションの実装に向けた新しい目標・評価指標および役割の変更について、よく理解していることを確認する必要があります。個々のステークホルダーのニーズや所在を考慮しながら、最も効率的なコミュニケーション方法を慎重に検討する必要があるのです。

 6.将来を見据えたリーダーの育成

「一般的な認識に反し、有能なリーダーがオーセンティックであることはめったになく、オーセンティックなリーダーが大変非効率的な場合もあります。認めたくはありませんが、「何とか乗り切る」能力はリーダーとしてのポテンシャルの重要な要素です。」-トーマス・チャモロ・プリミュージク

 組織の失敗の多くは、危機に直面した際、自身の先入観を捨てられず”authenticity”(本来の目的や価値観の軸をぶらさず、真摯な態度で人をリードする姿勢)を示すことができなかった、ヘルスケアのリーダーによる利己的な誤りに起因します。リーダーのエゴはしばしば利己的で自己保存的です。誤った仮説と自己への過大評価は、組織とステークホルダーの価値と一致しない力の行使につながります。仕事の価値観と整合性を守るために、すべてのヘルスケアリーダーにはより高い”authenticity”が必要です。

 “authenticity”はリーダーの間で一般的に評価されるスキルですが、患者・職員の安全や、幸福を守りたいという願望とバランスが取れていないと、”authenticity”は唐突で有害になる可能性があります。経営層の地位に達すると、チームをケアすることに興味を失い、自己をよりよく見せることを気にするリーダーもいます。新型コロナウイルス感染拡大のストレスの下で、”authenticity”でないヘルスケアリーダーは自己保存に気を取られ、冷たく権威主義的な指揮になってしまいました。

 リーダーは、真の”authenticity”を発揮するには、自己認識を高める必要がありますが、残念ながら、多くのリーダーはこの自己認識を通じた”authenticity”の獲得が出来ていません。その為にも、リーダーは言葉と行動に一貫性があり、さまざまな場面でプロフェッショナル且つ偽りのない態度を維持する必要があります。リーダーは、組織のケアを提供するというミッション、及びすべての関係者の成長に献身的になり、「ZEROHARM」を組織の中心的な価値として採用する必要があります。

 優れたリーダーは、より大きな目的のために何が良いのかを識別し、リーダーシップの原則としてその意欲に従います。ヘルスケアにおける高い信頼性の追求は、必ずしも個々のリーダーにとって最善または最も簡単なことであるとは限りません。将来を見据えた組織は、リーダーが個人的な野心をわきに置き、すべての組織のステークホルダーに利益をもたらすように取り組むことが必要です。医療機関がニューノーマルに移行した際には、リーダーは以前の臨床および運用に戻る動きに抵抗し、改善された未来を創る必要があります。新型コロナウイルスの拡大は、すべてのリーダーに、サービス、品質及びレジリエンスに関する、組織としての遺産を作る前例のない機会を提供しました。今こそ、ヘルスケアリーダーが前進し、過去から学び、現在を安定させ、将来を見据えた組織を構築するときなのです。

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Relia Healthcare Advisors

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