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【ウェビナーレポート】病院ITシステム導入による働き方改革

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目次

2021年6月24日開催しました、ウェビナー「病院ITシステム導入による働き方改革」のウェビナーレポートをお送りします。

講師:小西竜太
専門:総合内科、医療経営
(株)三菱商事 ヘルスケア部 シニアマネジャー
(株)エムシーヘルスケア 執行役員CMO 兼 事業本部長補佐
前職では救急総合診療科部長として救急集中治療や総合診療に従事する傍ら、「医師の働き方改革」について、病院経営系雑誌への寄稿、学会・官庁・医療機関向けの講演などを多数行っており、勤務先病院では働き方改革の導入を経験した


1. 病院におけるITシステムと働き方改革

1) 病院のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を考える

医師の働き方改革は複合的なテーマですが、時間も限られている為、労働時間の削減、ITシステム導入の効果期待にテーマに絞ります。

DXは3つのステップから成っています。デジタイゼーション(Digitaization:デジタル化)、デジタライゼーション(Digitalization:デジタル技術により新しい事業を生み出すこと)、そして DX (Digital Transformation:デジタルによる組織全体の変革、従業員の意識改革をすること)です。

ほとんどの病院は既にStep1のデジタル化はなされています。たとえば、紙伝票をやめ、オーダーリングシステムをとり入れました。既に20年程前に導入した病院も多いと思います。その次に紙カルテが電子カルテになりました。また、フィルムもPACSでどこでも見られるような時代になったと思います。

では、Step 2のデジタライゼーションでは、我々の臨床業務の中でどのような変化が起こったでしょうか。PACSと検査データと電子カルテの記事を並べて診断の意思決定、あるいは診断支援をすることはデジタル技術を活用した一例になります。あるいは看護必要度のスコアリングの自動化、それを診療報酬算定と連携することも一つのデジタライゼーションです。

ただし、これは病院の中で見てもごく一部です。一部は進んでいますが、まだまだ紙の運用も残っており、組織全体としては進んでいるとは言えません。

ステップ3では、どんな世界があるのでしょうか。DXとは、デジタル技術によって全く変化した事業モデルですが、恐らくここまで行っている日本の医療機関はないのではないでしょうか。ペーパーレス化や患者と医療機関が直接Webで繋がること等により、今後の診療体制や医療の質・安全、あるいは臨床教育が変化していくのではないかと考えます。

2) 技術進歩による業務面での変化

例えば紙面上管理していた情報が、ワードやエクセルに移行しました。それらのファイルを自分で管理する時代から、クラウド上で共有・管理する時代になりました。これは皆様が肌で感じているような変化だと思います。

また、例えば臨床業務では、昔ポケベルを利用していましたが、PHSへと変わり、今後はスマートフォンに変わっていくと予想されます。スマートフォンになると一気にできることの範囲が拡大します。チャットの活用、画像共有などで診療の意思決定も大きく変わります。意思疎通の仕方もかわり、業務にも大きな変化が出てくるでしょう。

3) 診療系に偏重している病院システム:病院DXは組織全体でのデジタル化の先にある

病院の経営層は、たいてい病院の医師や看護師です。したがって、システム導入が最も早い領域はPACS、電子カルテや医事会計、検査、薬剤など診療系に偏る状況にあります。

一方、事務系のシステム(総務・人事・会計・契約)はワード、Excelや PDFの管理が多く、システムを入れていても十年前に導入したものを継続利用されている場合も多くみられます。さらには、職員向けのシステムや患者向けのシステムが皆無の病院も多くあると思います。では今後どのような変化が起こるのでしょうか。

おそらく、AI診断やデータ連携等の技術が、すでに導入が進んでいる診療システムに上乗せされ進化していく一方で、事務系、職員向けのシステムについては、医療職の関心が薄く、乖離が進んでいくことが考えられます。医療情報部は日々の業務に追われ、全体的な戦略が描けない状況にあるのではないかと考えます。

したがって、今一般的に言われている「医療 AI」や「スマートホスピタル」はどちらかといえば診療特化型のデジタル化だと思います。ただし、この部分は、5年ほどでは基幹的な技術はそれほど変わらない、あるいは導入には大きなコストがかかるような状況だと捉えています。 

私がもし病院DXや病院全体の意識改革に取り掛かるのであれば、おそらくまだ導入が進んでいない非診療系・顧客システムから着手します。そのシステム化を進めて、より業務効率や患者満足度あるいは従業員満足度の改善、経営基盤の強化を目指します。またシステムの土台となる、サーバーやネットワークやセキュリティも、今後の地域連携や職員の業務上のスマートフォン利用等に耐えうるようなインフラへの底上げを優先します。

システムの全体像を考えるのが先決であり、病院DXはこの先の段階にある状況だと考えます。

4) 病院DXやスマートホスピタルのバズワードに惑わされるな

「病院 DX」や「スマートホスピタル」のバズワードは、病院管理系の学会や医療系雑誌などで頻繁に登場します。また、ITベンダーやコンサル、医師が起業しているベンチャーなどでも「病院DX」はよく掲げられています。

ただ、規制産業の医療が他の産業に先駆けてDXすることは考えにくい状況です。マイナンバー連携をしなければ、その先の患者連携は進みませんが、あと数年は全国での運用は厳しい状況です。

また、医療機関にとって、他の医療機関に先行したDXはカスタマイズ扱いとなり、コストが負荷されます。現在のスマートホスピタルの取組は、企業と連携し、研究費をもらいながら進められています。また、2000年あたりから、地域連携の取組も行政からの補助金で進められてきましたが、補助金がなくなると上手く回らないという状況が続いてきました。

したがって、DX というよりも、まずは院内のシステム化や連携、デジタル人材育成、医療情報部の育成を図って、できる範囲の業務効率化や医療の質向上を図るべきだと考えます。

このような前提を持って次のところに進んでいきましょう。

5) 医療の働き方改革にとっての「生産性」の意味合い

医療の働き方にとって「生産性」の意味合いは非常に大きいと思います。

生産性を数式で表した場合、「生産性=サービス量/労働投入分」と表現できます。たとえばこれを自動車製造業に当てはめると、サービス量は生産台数や、自動車の売上高で測ることができます。

これを医療に当てはめた場合ですが、「生産性=医療サービス量/労働投入分」の医療サービス量を数字に置き換えることは難しいと感じます。

医療の働き方改革の「生産性」を「将来の生産性=医療サービス量(将来のOutput)/労働投入量(将来のインプット)」として捉えてみて、これを因数分解すると「将来の生産性=現在の生産性×機能(≒質)×効率性」になります。

これらのすべて因子を一度に変えるのは難しいことですが、進めやすい部分は「効率性」を変えることかと考えます。たとえば、デジタルのシステムを導入する、あるいはタスクシフトを促進することで変更可能です。一方、病院の「機能」を変更する場合は、診療機能が含まれるために時間を要します。病院の経営層はどのようなところを優先し効率化を進めていくか考えていく必要があります。

6) 医師の働き方改革における因数分解

一方、医師の働き方改革を因数分解すると、次のような数式となります。

当たり前ですが、総業務量が多ければ時間も人数もかかり、少なければ時間も人数も減らすことができます。

医師の働き方改革では業務時間の削減を明確に命じられているので、1人あたりの業務時間を左辺にすると、次のような数式が成り立ちます。

分母となる、「業務処理スピード」を上げること、「人数」を増やすこと、分子となる「タスクシフト可能な業務」を整理し医師の業務を減らすこと、「不要な業務」を減らすこと。これ等を実施すべきことは明確です。

ここでデジタルの活用が効果的なところについて抜粋し説明します。

7) 業務量を減らす2つのアプローチ

①業務量の見直し

医療者は患者の診療で多くの見直しをしてきました。 DPCの導入で2000年前半は3週間程度だった平均在日数を現在は10日程に減りました。クリニカルパス導入や、入院サポートセンターの設立、ICUでのリハビリ促進による早期社会復帰など色々な診療内容の変化を進めてきました。

一方、日常業務のルーチンや慣習、診療以外の業務については目をつぶってきた部分があるかと思います。病棟回診、包帯交換、消毒等の進め方の見直しはあまり行われません。緊急カテや内視鏡において全員集合しないと処置を開始しない診療科や、クリニカルパスを毛嫌う医師もいるなどの非効率もあります。診療以外では、書面で済む会議の開催、煩雑な決裁プロセスなどが挙げられます。効率化を目的として、IT・システム化を行うのは重要ですが、不要な業務をIT・システム化して存続させる必要はありません。病院は今一度日常業務や慣習を見直し、廃止するもの、システム化するもの、改善するものを仕訳ける必要があります。

②タスクシフト

現状、医師から看護師・薬剤師にタスクシフトするのは難しいと考えています。特に看護師は既にあらゆる現場の業務を請け負っている状態です。まずは、看護師の業務を検査技師、薬剤師、リハ技師、看護助手等にタスクシフトします。更にそこから非資格者であるクラーク、各部門の非医療職員、事務員にシフトしていきます。医師の仕事は処置等、責任を伴う内容が多いので、看護師、薬剤師、技師の仕事が整理された上でシフトを検討していく必要があるでしょう。厚労省の働き方改革関連の検討会の中で「タスクシフト/シェアの推進に係る検討会」があり、タスクシフトの実施・検討が可能な業務の一覧を発表しています。ぜひご覧ください。

タスクシフトに関しては色々な抵抗はあると思います。特に、医療安全においてのリスクを気にされる方が多いでしょう。そうした中、非診療業務のデジタル化は着手しやすいという利点があります。デジタル化を積極的に利用できる場面として院内コミュニケーション、情報共有、業務マニュアルの共有、院内勉強会などが挙げられます。スマホを導入し、コミュニケーションにチャットや画像の活用する、マニュアル等を見やすい画像や動画の形で共有する、集合学習の代わりに学習管理システムや動画などを取り入れる、等積極的な推進が可能です。

8) 働き方改革の多様性

同じ病院に勤めていても、場所に拘束される「空間固定的」な診療科と空間的制約のない診療科、時間に拘束される「時間固定的」な診療科と時間の制約のない診療科等、働き方は多様です。たとえば救急・ICUは空間固定的かつ時間固定的ですが、放射線診断は自宅で読影が可能な場合もあり空間及び時間の制約が緩いと言えます。本来は、それぞれの働き方に応じ、診療体制、職務規程、労働規約が必要になると思います。

一方、これを実現した場合、人事管理・業務管理が煩雑になり、管理職業務が忙しくなります。通常勤務であれば、上司は部下の時間外申請の決裁のみ行えば済みます。現場の医師や職員もタイムカードや勤怠システムで就業開始記録し、時間外は手書きで申請を実施しています、事務職員は紙伝票をエクセルやシステムに入力して管理が可能でした。多様な働き方を導入した場合、勤務表の作成、インターバル時間の管理、職務規程が異なる場合はそれぞれ変形労働制勤務や裁量型勤務によって、残業の管理の仕方も異なってきます。こうなると紙伝票とエクセルでの対応は難しくなり、SaaS(Software as a Service:クラウドで提供されるソフトウェア)やシステムの導入検討が急務になります。導入により、事務職員の労務負荷の削減も期待できるでしょう。

9) 病院ITシステム導入による「効率性」と「機能」

病院ITシステム導入により、「効率性」と「機能」がどのように変化するか見ていきましょう。

効率性の改善は、短中期でまずは日常業務の領域からスタートし、全職員を対象とします。コスト削減、時間削減が経営のメリットとして期待できます。また、事務職員の時間が空くことで、今まで薬剤師や看護師などの職種が実施していた事務業務を代わりに実施することが可能になります。薬剤師・看護師は代わりに医師の業務を受けることができます。このように診療以外の部分を効率化することで、診療実態も改善することが可能になります。

もう一つが診療全般にかかわる「機能」です。対象は医療職や患者になり、経営においては費用が掛かりますが、収益増・質・安全の改善が期待できます。CDS(診療支援)IoT・機器・センサーなど、いわいるスマートホスピタル等で積極的に導入されるものが例として挙げられます。ただし、こうした技術は一度に導入されるものではなく、ある程度中長期的に導入するものと考えます。

本日は効率性改善にフォーカスし、いくつか具体的な例を挙げていきます。     

2. 効率性改善に向けた具体的ソリューション

デジタル化により業務スピードが上がるだけではなく、不要な業務(異動、転記、確認、印刷、探索)も減り、好循環が生まれ、一人当たりの業務時間が削減されます。

たしかに、利便性の悪いシステムを導入してしまった場合の業務量増大のリスクもあり、そうした経験も実際、我々はしてきました。ただし、診療以外の部分おいては総じて効率化が望めると考えます。

1) 病院スマホ導入による業務効率化

たとえば看護師と医師とのコミュニケーションにおけるスマホ利用を例に考えてみましょう。現状、緊急・重要な事項も、オーダー依頼のような業務もすべて通話で調整しています。例えば、足りない処方薬のオーダー依頼をスマホのチャットアプリで実施できれば、医師は空いた時間に対応ができるようになり、看護師もコミュニケーションにおけるストレスや待ち時間が解消されます。また業務時間内に処方できると、時間外オーダーが減りますので、薬剤師の業務負荷減らすことが可能です。

2) 音声入力による入力作業の短縮化

ある病院のリハビリ科では、リハビリ終了直後にカルテ記載内容を音声入力するようにしたところ、一日の終わりにキーボードで入力するのに比べ、作業時間を半減できることが分かりました。

3) 勤怠管理

ビーコンやシステムとスマホを連携させることで、職員通用口や医局が通った際に、自動的に出退勤情報が人事システムに入力される仕組み構築が可能です。月末には入力変更などの作業は必要ですし、院内での一定のルール決めは必要ですが、業務の簡略化が可能です。

4) 自動問診システムによる問診業務・カルテ入力の省略化

患者がタブレット入力した情報が電子カルテ連携されるので、従来型の問診に比べ時間が大きく短縮できます。また、看護師が予診をし、事務職員が支援し、医師がカルテ入力をするという体制から、事務職員が事前に入力用のタブレットを準備する、という体制に一気に縮小ができます。自動問診はベンダーにより異なる特色を持っているので個々の病院にあったものを導入するのがいいでしょう。

5) 院外とのPACS連携

時間外当直医からオンコール専門医に、CT/MRI読影、緊急手術・IVR判断の連絡をする際に、個人のスマホで情報連携ができるようにすると、オンコール医師が病院駆け付ける回数も減り、負担軽減につながります。院内セキュリティルールでまだこれが許されていない病院も存在するかと思いますが、セキュリティは日々改善されているので、検討の余地はあるかと思います。

6) インフォームドコンセント

簡単な手術や説明の内容によっては、患者とは対面、家族とはオンラインする、また同意の書面もオンラインでできるようにすると、患者側の負担も減らすことができます。また、説明した内容を自動的に録音する等の付加的機能もあります。

7) 事務職員の働き方改革による外来業務のタスクシェア

たとえば、病院会計支払いシステム導入により、会計処理の平準化が可能になります。患者は事前にクレジットカードを登録することで、会計処理を待たずして帰宅することが可能です。後日治療費が引き落とされます。医療機関は会計処理の業務の一点集中を無くし、ある程度均すことが可能になります。

8) コロナワクチンWeb予約システムによる事務職員業務の低減

初診の患者を電話で受け、電子カルテに転記をする、というプロセスは病院にとって大きな負荷がかかります。こうした場合は、予約専用システムを利用し、完全WEB化するなどの工夫も必要になります。

3. 最後に

1) 病院システム導入俯瞰図

俯瞰をしてみると、患者・職員に係る作業はまだまだアナログに集中しています。診療領域において部門システムやPACSを連携・ネットワーク化することは非常にハードルが高いですが、こうした職員に係るアナログ系の業務はすでにネットワーク化できるものが多く、これは積極的に進めていくべきと言えます。

2) 働き方改革のKPI管理

労務指標(時間外労働、当直日数等)はアウトカム指標として管理が必要です。それに向けたプロセス指標として、業務改革やタスクシフトに係る指標を設定します。デジタル化指標も含め、KPIは次の通りとなります。

こうしたKPIを作成し、労務管理の可視化、診療実績の可視化、経営指標の可視化をマネジメントすることで、本来行うべき病院管理を実現することができるのではないかと考えます。


記事提供者
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エム・シー・ヘルスケア株式会社

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